ホームランの打球角度が45度ではなく30度前後がベストなのはなぜか? | てられなメモ

ホームランの打球角度が45度ではなく30度前後がベストなのはなぜか?

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物を投げるときは物理的に45度の角度で投げた方が一番よく飛ぶはずですが、野球のホームランについてデータを調べると、30度前後での本塁打が一番多くなっています。

なぜなのか気になったので、力学的に検討し、実際のMLBデータと比較してみました。

ちなみに私は工学系の人間で、野球については素人です。

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45度より低い角度でよく飛ぶ理由の一般的な回答

上記のような疑問はYahoo!知恵袋にもいくつか挙がっており、ベストアンサーとして以下のような回答が付いています。

しかし、私としてはどの回答も納得がいきません。

スピンの影響説

1つの回答として、「上向きの角度で打つとボールにバックスピンがかかるから」という回答がありました。

たしかに、スピンがあると弾道が変わるので、いくらか影響はありそうです。
しかし、いくら上向きの変化球が放たれたとしても、45度の高さが理想なのに、最初の角度が30度というのはいくらなんでも低すぎるように感じます。

空気抵抗や風の影響説

そのほかの回答として、「45度の角度が理想というのは空気抵抗を無視した机上の空論であり、実際には空気抵抗で打球速度が落ち、風の影響もあるので低い角度のほうが距離が出る」という回答もありました。

試しにティッシュを丸めて投げると、空気抵抗で速度はすぐに落ちます。しかし、野球ボールほどの重さがあり、ほぼ球形をしている物体が受ける空気抵抗の影響は、そこまで大きなものでしょうか。

空気抵抗の大きさは、大雑把には速度に比例するといわれます。打球速度が同じ場合、打球角度が違っても受ける空気抵抗はほぼ同じであり、最初が MAX で、その後はどんどん減衰するはずです。

高い角度の打球ほど滞空時間が長いため、結果的に受ける空気抵抗の総量は大きくなります。とはいえ、とある一定の初速度の条件では、45度と30度の滞空時間の差は、6.7秒と4.7秒ほどの差です。ベストな角度が45度から30度に変わるほど、空気抵抗に大きな差が生じるとは思えません。

風の影響にしても、向かい風と追い風の割合が同じであれば影響は中立的なので、打球角度が高いほど不利になるわけではありません。

打球角度30度がベストである理由の私の仮説

私が考えた末に直感的に思ったのは、打球角度が高いほど打者の力が球に伝わりにくいために、打球速度が出にくいことが関係しているのではないかということです。

同じ速度で打球を飛ばせるのであれば45度に近い角度が理想だと思いますが、角度が大きくなるほど打球速度が遅くなるため、そのつり合いがとれるのが約30度なのではないか、と。

水平方向に飛んできた球を打ち返すとき、角度をつけてバットで跳ね返すより、同直線上に正反対の力で跳ね返す方が、力にロスがなく、100%の力を発揮できます。

細かく見ると、角度を付けてバットで跳ね返す場合には、大別して以下の2パターンがあります。

A)水平にバットを振り、バットの上部が当たることで斜め上に飛ぶパターン

B)バットの芯を当てることで斜め上に飛ばすパターン

A の場合、角度が付くほどボールに伝わる力が弱くなることは、簡単に想像できます。

重心に当てる B にも2種類あり、アッパースイング(上がり気味)にバットを振る場合と、低い球に早めにコンタクトして打球角度を付ける場合があります。いずれにしても、B は A よりバットの力を直接加えることができますが、力の方向が変わるため、球が来た方向にそのまま打ち返す場合よりは小さくなるのではないでしょうか。

MLBのデータで見る打球角度と飛距離の関係

頭で考えると何が正解なのかははっきりしませんが、どの打球角度が飛ぶのかは、現実のデータで確認することができます。
メジャーリーグ(MLB)では、スタットキャストで多くのデータが公開されているからです。

たとえば、次のように、2022年における打球角度ごとの平均飛距離のデータを出すこともできます。

Statcast Hit Probability
Baseball Savant

これをメートル単位にしてグラフにすると、次のようになります(ついでにホームラン率のデータも掲載)。

飛距離が最大の打球角度は29度であり、ホームラン率は26度~31度で22%以上となっていることがわかります。

いっぽう、打球角度45度では飛距離が伸びず、ホームランはほとんどないこともわかります(大谷選手は45度で本塁打を打っています…)。

シミュレーションで見る打球角度と飛距離の関係

上記の仮説を検証するため、打球角度と飛距離の関係について力学的にシミュレーションしてみました。
シミュレーションといっても、空気抵抗やスピンの影響は無視し、球の速度と角度と位置のみを考慮した検討です。

詳細は省きますが、重力加速度や積分を使って Y 座標がゼロになるまでの時間を求め、飛距離はその時間に水平方向の速度(一定と仮定)をかけることで計算しました。

まず、打球速度を一定(MLB平均の142km/h)として、1m の高さから打った場合の角度ごとの飛距離は次のようになりました。

やはり、この場合、45度の角度で飛距離は最大となります。物理的に45度が最もよく飛ぶというのは、まさにこのシミュレーションのことでしょう。

参考までに、大谷選手のホームランの現実データと比較してみます。
2023年6月23日の本塁打のデータを見ると、打球速度 166km/h、打球角度 26度、飛距離 132m という情報が見つかりました。
上記のシミュレーションでこの速度と角度を入力すると、計算上の飛距離は 173m でした。現実に 24% ほど飛距離が短いのは、おそらく空気抵抗や風の影響でしょう。

次に、打球速度が角度によって変わると仮定して、同じ計算を行ってみました。具体的には、打球速度は、0度のときを最大として、それに打球角度の余弦(cos)をかけた値に相当すると仮定してみました。

この仮定では、30度では √3/2 = 86.6%、45度では 1/√2 = 70.7% となります。90度のときの打球速度は0となってしまいますが、現実にはそうならないので、あくまで大雑把な近似です。

この計算上の飛距離を角度ごとに計算し、先ほど紹介したMLBにおける実際の飛距離と重ねてグラフにすると、次のようになりました。

多少の違いはあるものの、ピークは30度であり、現実とほぼ同じになります。

スピンや空気抵抗の影響を考えなくても、30度というのは妥当な角度ということです。

とはいえこれは、あくまで近似です。余弦の近似が適切かは微妙ですし、現実には投球もスイングも水平方向ではないことや、スピンや空気抵抗の影響もあることにも、注意は必要です。

結果の感想

現実のデータと計算から、ホームランになりやすい打球角度は約30度であることがわかりましたが、改めて思ったことは、最大の打力が重要だということです。

打力が平凡であれば、ちょうど30度前後で芯をとらえないと本塁打になりませんが、打力が強ければ、本塁打になる打球角度の幅が広がります。

パワフルな大谷選手のデータを見ると、本塁打の打球角度は 18度~45度と幅があります(平均は28.6度、参考)。

力があればあるほど、フルパワーで打ち返すことにより、多少のズレがあったとしてもホームランや長打になる確率が上がるのではないでしょうか。

参考:各競技における最適な投射角

参考までに、野球以外の競技において最適とされる投射角について調べてみました。
資料によって異なり、最適な範囲に幅があったりしますが、ざっと数字を拾うと以下のようになりました。

ゴルフ:14度
やり投げ:36度
ソフトボール投げ:37度
円盤投げ:37度
砲丸投げ:41度

どの競技にも必ず45度がよいという人がいますが、現実にはより低い角度のほうが記録が出ています。
角度を付けると力を入れにくくなる競技ほど、実は低角度が良い印象です。

子供の頃、ソフトボール投げは45度がよいと聞いたものの、実際には 45度はかなり急で、投げにくいと感じていましたが、やっぱりそうだったのですね。。

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